進行5話 ー後編

「終幕」


第十二戦 (一、八、九の守護者)
場所:場所:落花市中央 武道場
視点:光月総一など 


視点:光月聡一


「万里・・・?」

そこに立っていた彼は守護者招集からの約半年間ともに戦い、背中を預けた盟友にしか見えなかった。しかしそれは違うと直感が告げる。

それが纏う影は自分を主のように慕う無邪気な彼が持つべきものでなく、とてつもなく邪悪な存在にしか見えなかった。


「万里じゃない。俺は九戯里。菊大路九戯里だ。」

"くぎり"そう名乗った万里にそっくりな人物は話を続ける。

「万里は未だに優しい部分が残っているのさ。今は美菖蒲・・・いや杜若か?あいつに別れの挨拶でもしてるんじゃないか?」


では今まで俺が背中を預けて戦っていたのは・・・

「おいおい、もしかして仲間に裏切られて泣いてるのか?」

ずいっとかがむように総一へ近づく。

「お前さあ。一度でも戦ってる時の万里の顔見たか?きっとこの三人には裏切者なんていないって信じきってなかったか?」

こっちが黙っているのをいいことに、総一がなかなか弓を握ることができなかったおかげでどんどん偽物の守護者を葬ることができたと笑っていた。

「可哀そうになぁ。あの嬢ちゃん、ずっと泣きながら両親に愛してほしかったって嘆いたりお前の名前を何度も叫ぶから、聴くに堪えなくてさっさと息の根止めちまったよ。死体も出てこなかっただろ?これで一族の縛りからも解放されたってわけ。」

予想できなかったこの状況を整理しようと、こいつの言葉も頭に入れつつ必死に作戦を練っていたがその言葉で頭が真っ白になった。

その反応により気分を良くしたのか、熛炬にも視線を移しぎろりとにらみつけた。


「――で、だ。お前ら"偽物"の守護者も二人だけ。さっさと死んでもらわないとな。」

「"偽物"ってなんだよ。」

冷静に事の成り行きを見守っていた熛炬が口を開いた。

「偽物だよ。お前らは。この腐った落花の名家と桜ノ宮神社に操られている被害者でもあるが。

 腐敗した系譜はあいつらに絆され血管を伝って転移するがん細胞のようにお前らの代まで受け継がれている。俺様たちがこの100年という区切りで・・・この復活した鏡の力を持って終止符を打つ。」

総一と熛炬はぴんと張り詰めた緊張の中、九戯里を睨みつけながら彼の言葉を聞いた。


「待たせた・・・九戯里。」

道場の入り口から万里が姿を現す。

装束の色でしか見分けがつかないほど、瓜二つな彼らと生き残った守護者がとうとう対峙した。

「いいタイミングだ!万里。」

場違いに明るい声色で万里を迎える九戯里。


気分の良い彼はさらに続けた。

「名誉とは高潔なる行為に与えられるものである!」

100年前の俺は仲間を想い、生まれ育ったこの集落の人間を想い、戦った。

問おう。

いつから清き願いは色あせて誤った道へ堕ちたのか。

なぜ優しき願いは心を疲弊させるのか。

お前たちの代こそはきっと・・・そう願っていた。

しかし、俺が100年の間に見たのは、学習しない猿どものさらなる腐敗だった。

災厄の中で散っていった同胞の名を、同胞の命をかけた決断を。

誰かが語ってくれると・・・信じていた。


「俺たちが守りたかったのはこんな集落や人々ではない。」

九戯里ははっきりと言い放った。

続けて万里が口を開く

「―――だから、俺と九戯里で全てを終わらせるまでだ。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


第十二戦A
松井熛炬 対 菊大路九戯里


「お前の相手は俺だよ。」

そう言って、熛炬を指さした。

「・・・。」


場所を外へ移し、一騎打ちが始まる。

「相手を想い、詠えば応えて顕現する。

それはその者たちが俺に託した想いが俺を守り、ともに戦う武器となる。

――藤波の 咲き行くれば 不如帰 泣くべき時に 近づきにけり 」

九戯里は桜ノ宮神社から行方が分からなくなっていた花札の内の一枚を手に取り歌を詠む。


「この短刀の真の持ち主は怪我をすれば俺を叱り、心配してくれた。優しい奴だった。自分は細っこくて今にも折れてしまいそうな身体の癖にな。」

いつくしむかのように顕現された短刀を撫でる。

大嫌いなあいつが持っていた二振りの短刀。


熛炬のことなど微塵も脅威に感じていないのか隙だらけだった。

「100年前の思い出話なんかあの世で話してろよ!・・・さっさと死ね!」

大砲から放たれた花火玉は狙い通りの弾道を通る。

しかし、ひらりと難なく避けた九戯里はあの長身からは想像できないほどの素早さで間合いを詰めた。

月のない闇夜でも輝く純白の二振りの短刀は熛炬の肩口を斬った。


「うっ・・・ああああああ!!!!」

押さえてもとめどなく血は流れていた。

軽々とすれ違いざまに斬った程度にしか見えなかったが相当に深く斬りつけていたようだ。

「痛いだろう。彼は住民を見捨てずに声をかけ続けたんだ。」

「しらねえ!!知らねえよ!!オレには関係ないだろ!!!」

強い力で振り払われそうになりそうになった九戯里は後ろに飛ぶ。

――青柳の上枝攀ぢ取りかづらくは君が宿にし千年寿くとぞ

さらに九戯里は和歌を詠み武器を変える。

「こいつもさ。少し危なっかしいところはあったけれど、絶望的な状況でも俺を励ましてくれた。」

過去に思いをはせる隙だらけの九戯里。

熛炬は肩をかばいながら不自由な体勢で次の花火玉を装填しようとした。

しかしそれも叶わず、九戯里の足払いを受け、花火玉は地面を転がる。


熛炬は仰向けに転がり負傷していない方の手で砂や砂利を握り顔めがけてぶちまけてやろうと砂を握る。すでにその目論見も見破られ自由の利く方の肩は踏みつけられた。

九戯里が十手を逆手に持ち、先ほど短刀で斬りつけた傷痕を体重をかけえぐる。

「松井熛炬、お前こそ自己保身に走り、愚かで一番最初に死ぬべき偽物だ。落花の腐敗を体現している。」

犠牲になった仲間など気にもかけず生き残る道を選んだのだろうな。


愚かで傲慢な者が何かを願い叶えることなど、俺は許さない・・・しかし。

「い゛・・・っ!」

「化け物退治だと思ったか?

 違う。―――俺を見ろ。お前の花火は人を殺している。」


「――それが何だって言うんだよ。」

「・・・。」

「全部ぜんぶっ!オレのための踏み台になれよ!!

 この花火だってオレが生き残るためなら人殺しにだって利用してやる!」

その言葉にぐっと悔しそうに一瞬九戯里は顔を歪めた。

「救いようのない屑め・・・」

一瞬の動揺を見破り熛炬は血まみれの手で抵抗し九戯里から逃れた。


何度か形勢を立て直すことができたように見えたが、白い二振りの短刀で何度も何度も斬りつけられる。


花火玉の数も底をつきた。出血の多さからか、だんだんと視界はぼやける。

千鳥足のように、壊れた操り人形のように、無様に足はもつれ地面に倒れた。

ヒューヒューと苦しさを感じるような呼吸の音が響く。


満身創痍の熛炬は自分以外のすべてに向けた呪詛の言葉を吐き続けた。

「ああ、痛え・・・寒・・・い、どうして・・・オレばっかりいつもいつもいつも・・・!」

「・・・」

九戯里は、死期を悟ってなおも饒舌になる熛炬を静かに見ていた。


「寒いさむい・・・アイツはぬくぬくと・・・いまも病室で眠りやがって ふざけんな・・・クソが・・・ああああああ!!! あ、ああ・・・」 

うめき声のような悲痛な叫びの後、ぷつりと言葉は切れた。


動かなくなった熛炬の衣服は私服に戻った。

死をもって役目から開放された熛炬は九戯里の靴の先であおむけに転がされる。

血だまりの中から血と火薬がこびりついた花札を抜き取ると、九戯里はその場を後にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


第十二戦B
光月総一 対 菊大路万里


視点:菊大路万里


「ありがとう。罪悪感の中ここまで耐えられたのは、総様がくれた高揚感と多幸感のおかげだよ。」

俺、いつものようにヘラヘラってチャラそうに笑えてる?

気持ちよすぎてハイになってない?ラリってる奴ら特有の変な表情してない?

きっつい労働の後に流し込んだ度数の高い酒のように今までの苦労を燃料にこの快感が身を焼くような気さえする。


「・・・どういう意味だ」

「三光で聡明で超イケてる総様でもわからないことってあるんだ。笑える~」

「万里・・・君は」

総一はまだ希望は残っていると思っているのか、眉間に皺をよせながらも救いを求め縋る表情をする。


今まで、総様の苦しみをずっと近くで見ることができた。

悪いことしたなって思っても、あの「早く殺してくれ」って絶望の表情と「万里がいてくれたから」って少し持ち直して、また「守れなかった」って目まぐるしく変わる総様のあの顔!!

あんな良いもの見れるならまだ死ねないし、黒幕だって明かすのも勿体ない。


「でも、今の表情一番クる~って感じ。

 早くその薙刀で俺を斬れよ!ひー様との愛の力だろ!!」


「・・・・・・」


総一は先ほどの異形との戦闘で体力も当然消耗しきっていた。

そして、絶望した面持ちで万里を見ることしかできなかった。


「もういいよ。これ以上は無理だ。殺してくれ。」


「は?」


血が逆巻く。

「・・・あはは。何、甘っちょろい事言ってんだよ。もっと醜くもがけよ。」

「もう、いい。降参だ。どう考えても、この状況を打開できる術を思いつかない。・・・殺せ。」

・・・随分と格好良いこと言っちゃって。

酷くつまらないものを見る時のような気持ちで総一を見下ろす。


「殺さないよ。」

「万里・・・早く・・・僕を、殺せ」

「駄目。死んで逃げるなんて許さないよ。そうやって目、そらして逃げようとする奴、俺嫌いだなぁ。」

総一の胸ぐらを掴む。

「1番苦しむ方法で、俺がクソ三光様方から受けた理不尽を全部やり返してやる。光月総一、お前にも、三光の家系全員にも。」

「・・・!?なっ、何、言ってるんだ・・・万里・・・」

総一の顔は真っ青に青ざめていた。今、彼の中でどんな恐怖と動揺が渦巻いているだろう。

「良いね。今の総様、・・・最高に可哀相で・・・!やっと、ちゃんと敬愛できそう。」

万里は総一の左目の傷をそっと撫で、子供のようにあどけなく笑った。


「ようやく、ようやく終わる・・・これで、俺の気持ちも晴れる、かな・・・」

ものの数瞬で総一の首を縄で縛り、ぐっと引っ張っていれば、気絶して倒れこんでしまった。


――――翌日


『奏さん!よくできました~!さすが蝶乃家自慢のひとり息子ですね!』

薄暗く湿度の高い地下室に似つかわしくない愛情に満ちた声がモニター越しに聞こえる。


モニターの前には手足を固定され強制的に椅子に座らされている男。

男がモニターから目を逸らした瞬間、それを許さないというように髪を掴みあげ乱暴にモニターに顔を向けさせる。


「し~っかり見ろよ。目を背けるな。」


初めての発表の場を成功させた幼い少年が嬉しそうに笑う。

『つぎも、がんばります!』

そう言って高級そうな洋菓子を頬張る。クリームが口の周りに付けば周りの使用人が丁寧に拭く。

それに対して『ありがとう!』と感謝の意を素直に伝える。

両親は別としても周りの大人から愛された幸せな思い出の一部。


「たのむ、やめてくれ...」

その後も、守護者だった彼らが幸せだった時の映像や写真が映し出された。


別の映像に切り替わる。

ケーキのロウソクが吹き消され、部屋の照明がついたところから始まっていた。

『陽子の将来の夢はなんですか?』母親らしき人物が優しく尋ねた。

『んー!さくらのみやじんじゃをおおきくする!』

『たのもしいなあ。陽子は。だれか立派なお婿さんを呼ばないとな』

父親らしき威厳にあふれた男性が答える。

『わたし!すきな人いるの!』

その一言で場の空気が変わり、父親はため息をつく。

『・・・陽子。』

『ごめんなさい。うそだもん。』

泣きそうになって俯く。ふっくらした少女の頬は桜色に染まり、涙が落ちた。


リモコンの一時停止ボタンが押され映像は少女が涙をこらえるシーンで止まっていた。

「この頃から可愛いね。誰なんだろうね。この頃のひー様の好きな人って」

「・・・やめて、くれ...」

掴んでいた頭を離すと総一は深くうなだれた。

万里は愉快そうな足取りで地下室の端へ歩く。

「次は"殺してくれ"でしょ。そんなことしないよ~?何度言ったらわかるの?」

地下室の端からもう一脚椅子を運んで視線が合う高さになるよう万里は腰かけた。

「殺したら、総一は自由になっちゃうでしょ?

 ず~っとここに縛り付けてやるから。思い出ムービーたくさんあるから!じゃあね~。」

そう言って再生ボタンを押し、万里はその場を後にした。


石の階段を上り、ぎぎっと音をきしませ扉が開く、その後にバタンと乱暴に閉じられた。


再び孤独になった地下室の中でモニターの中では幸せなシーンが無数に切り取られた思い出が流れ続ける。

目を背けようとも耳に届くのは嬉しそうにはしゃぐ声や愛を滲ませた優しい大人や彼らの名を呼ぶ友人たちの声。

それらが総一を責めるかのように鼓膜を震わせる。


「おれが・・・この子たちの未来を奪ったんだ・・・」

その後もすすり泣く声が地下室を満たしていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

後日談


視点:菊大路万里


 最後の戦いから数日後。

光月家、菊大路家、松井家の力を合わせて異形と黒幕だった美菖蒲葛を討ち取った。

―――ことになっている。

何かに憑依された美菖蒲葛はいまだに行方不明である。

死にぞこないの葛は上手く生き延びたのか、人格も乗っ取られたのかは俺にはわからない。


守護者戦や、年末から新年にかけての桜ノ宮神社の騒動が落ち着き、新年最初の三光の会合を行った。

今回の災厄の終焉を祝い、宴の席では九戯里が造った酒を振舞った。


どれほどアルコールが飲めない人間でも挨拶の際は一口だけ盃に口をつける。特に新年の会であるならなおさらだった。

九戯里と万里の狙いはそこにあった。


一般的に「猿酒」と呼ばれるものは猿が集めた果実が発酵した酒か三匹の猿の肝や背の肉を漬け込んだ酒のいずれかを指すが、日本を含むアジア古来の伝承では飲んだものに死の呪いがふりかかったり、仙薬にもなる話がある。

九戯里が振舞った酒は徒花の異形として召喚したかつての守護者の遺体の一部を漬け込んだ酒だった。

この振舞われた酒は人を惑わせ"菊大路家及び菊大路万里が三光の上に立つ本来の名家の主人”だったように彼らの記憶は改ざんされていった。

土産として各家の現当主や当主代理たちが持ち帰る。洗脳された彼らはあの菊大路家の酒だと家の者に振舞い、強く勧める。次々に伝染していった。


光月家及び月光衆、櫻宮家直系の神主不在の桜ノ宮神社、年老いた職人と身体の悪い熛炬の兄の残る松井家。

彼らは菊大路万里を主のように奉り、桜ノ宮神社には過去の災厄の犠牲者である11名の守護者の功績を記した石碑が建てられた。

九戯里はさらに生き残りの異形とともに新月の夜になると"餌やり"と称して、暴れまわっていた。

悪意が伝染するように、市内では暴力事件も増えていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

視点:とある医師


 落花市北部にある病院の産婦人科では今日も右手の指が欠損した子どもが生まれた。

二日前は顔に大きなあざがある子もいた。一週間前は心臓の形が片方だけ異常がみられる子など・・・どこがが欠けていた。

そういえば、行方不明事件や高校生から20代くらいまでの若い子が昨年夏から立て続けに失踪やら怪死したあの年から1年ほどたってからぽつぽつと増えてきたように思える。


そんな欠損のある子を産んだ母親は「うちの子どもは病気かもしれない!」と狼狽えることもなく愛おしそうにその欠損した箇所がある場所、今日の担当した母親は手を優しく愛おしそうに撫でてていた。子の表情を見る時間よりも、だ。

医師はここまで欠損のある子の出産がつづくのはさすがに異常だと柳病院長に告げる。

「いやいや、よく見てくれ。世の中完璧な人間がいないようにどこかが欠損した子が生まれることは不思議ではないじゃないか。」

「・・・しかし!生活利用水や土壌など・・・この地区の何かに問題があるようにしか思えません!県や国に報告すべき内容です。水質調査も役場と連携して・・・」

病院長は高級感のある事務椅子から腰を上げ、進言した医師に近づく。


「君はなんにもわかっていない。美しいじゃないか。愛おしいじゃないか。まるであの方のように・・・」


そう言って笑う病院長の瞳は新月の夜のような真っ暗な墨色だった。


落花の守護者 完結  ルート分岐:D(敗北)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

本日のロスト・脱落者:松井熛炬


なかなか確率的に勝利が厳しい設定のシナリオ進行でした。ダイスロールの結果から中盤~終幕にかけて立て続けに守護者がロストし終幕となりました。

運よく黒幕だった万里さんにダイスが当たることなく進んでいきバッドエンドであるDのルートで完結となりました。

解説や万里くんについての主催からの考察、グッドエンディングのAをIFルートとして公開予定です。しばらくお待ちください。


無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう