強襲11月13日


第九戦【強襲】 (十二、一、二組)
場所:北地区 刑場跡地
視点:複数名



 ついひと月ほど前までは三人減ってしまった守護者に対し、悲嘆にくれる者、ひどく落胆する者など受け止め方はそれぞれだった。

その時には、まだ瞳に悲しみの色を映しながらも、彼らの死を無駄にしないという意思が感じ取れていた。


しかし今はどうだろう。


小さな体躯でひたむきに戦った少女も

血の運命に棹差し、ただ傍観していた青年も

冷めた目で全てを鳥瞰している素振りの少年も


この大きな流れには敵うことはなく、また振り出しへ戻るだけなのだろうか。

大河を手で堰くことなどやはりできなかったのだろうか。


この守護者たちの物語も、私の役目もそろそろ終わりが近いように思える。

今回がたとえ失敗に終わったとしても次の代へ希望をつなぐことはできるのだろうか。


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徒花の異形が一体発生しました。

以下の守護者は排除に向かうこと。

場所:北地区 刑場跡地

桐月 野風

松井 熛炬

氷梅 六花

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視点:桐月 野風


 いくら鈍感な俺でも嬢ちゃんの様子を見れば、あのぼんぼんが特別な人だったってのはなんとなくわかる。

桜ノ宮神社も何考えてんのか、そんな心の傷もまだ開きっぱなしの嬢ちゃんにあの敵をわざわざぶつけんじゃねえよ。血も涙もねえ狸野郎なのは知ってたが、さすがにあり得ねえだろ。


松井の小僧は不気味なくらい落ち着いてやがるし。

後から聞けば、妹のような存在の声使った異形に1mmも臆せずぶっ放してた。

あいつはあいつで、この長引く消耗戦でおかしくなっちまったのかもしれない。


――ここは、年長者の俺様がこの組を背負ってやるしかねえな!

そう思って、雰囲気を程よく和ませるために高校時代の武勇伝や、やらかしてサツに追っかけまわされた勇気だけでなく愛嬌ある爆笑エピソードを話してやった。

しかし松井は鼻で笑って流すわ、嬢ちゃんはいまいち笑いどころが分からなかったようで微妙な顔してるわで...。

最近の若者のキョーチョー性の無さに俺様は頭を抱えてしまった。


そんなこんなで、今日の戦いでは蝶乃の坊ちゃんの仇を討ってやる!と意気込んでいた。

俺が敵正面、少し離れた位置で松井の小僧、さらに高台になる見晴らしのいい位置で嬢ちゃんといった、いつもの位置で戦闘開始。


じりじりと間合いを詰めようとしたら、異形はぞっとするような声で絶叫した。


視点:氷梅六花


 熛炬さんの花火玉も最初は一定の効果があったようで、怯んだ隙をついて野風さんが斬りかかる。

しかし何度か繰り返しても刀による腕や足への切り傷はじわじわと塞がれていく。


「首落とすしかねえな。おい!胴体狙え!」

野風さんの指示に素直に従い胴を狙ってバランスを崩した異形の首を取ろうと飛び掛かるように刀を振り上げた。


しかし、それはかなわず野風は大きな翼で薙ぎ払われてしまった。

どすんと大きな音を立てて砂埃が舞い上がる。


砂埃が消え、見えた光景は異形の左手が野風の首を掴んでいたところだった。


「野風さん!!!」

何度...何度も胴を撃っても翼によって防がれ、その翼が銃弾の衝撃で抜けようとも徐々に再生していく。

不死鳥は歪に再生する。羽根の再生は速いが胴体は遅いようだった。


熛炬さんは最後の花火玉を顔めがけて撃ち込むと、異形は右手でそれを防いだものの顔の右側はどろりと焼けただれ、皮膚やその下の筋組織がぼとぼとと垂れ下がった。


そんなにもダメージを受けたというのに、異形は欠けた指のある手を目いっぱい広げ野風さんの太刀を取ろうとした。


うめき声をあげながら腕を伸ばしていた。

『あ゛ア・・・オれのダ・・・』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

視点:桐月野風


"あの世の千日、この世の一日"

桐月家の過去の守護者数名によって秘密裏に遺された日記にあった言葉だ。


当時の次男坊や三男坊によって記されたその史料は、本を読むことなんてめったにしない俺でも読めるほどのページ数だった。

夏の招集の後、何かいい獲物がないかと蔵を漁っていた時に偶然見つけてしまったそれには100年前の"落花の災厄"と呼ばれる守護者と異形による戦いの記録も一部ではあるが記されていた。


「ああ、お前は・・・全ての元凶だったんだな」


日記のこと、父の言葉、舎弟の気遣い、親友との思い出など、

この異形に首を絞められながら、走馬灯のように過去の出来事が脳内で駆け巡った。


『返セ・・・返せ・・・』

片手で首を押さえつけながら異形は野風の太刀に手を伸ばす。


よくよく近くから見れば江戸時代の絵巻物にあるような試し斬りされた罪人の死体のように等間隔の傷が胴にあったり、腕には罪人の入れ墨があったりと多くの罪を体現した異形は何を必死に許しを乞うのか。


「―――もう遅えよ。」

声にならない声で話しかける。


『俺ノせいで・・・兄サんの子や孫ガ・・・』

花火玉のやけどによる火傷から滲む体液なのか、涙なのか。

ぼたぼたと砂地に水滴が落ちた。


お前がこの刀を振るったとしても、もう罪は消せないし、

その心配してる子どもや孫たちだって贖罪のために死んでいったさ。

そのために願ってやったっていうのに...


俺まで殺すことないだろ。


異形は太刀を手に取り、獣の吠えるような叫び声を上げた。



そして野風の左胸を刺すように貫いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

今回のロスト・脱落者:桐月 野風

怪我人:なし  

今回の徒花の異形:盗人の贖罪



【閑話】シナリオ進行上、一部情報の開示

当時の関係者による手記より


 七月の新月の日、結界が完全に崩落したことにより化け物が落花集落を襲った。

化け物は市民を襲い、家屋に火を放ち火災や混乱における暴動がおこった。


新月から2日を過ぎたと思われるが日が昇ることはなく墨で塗りつぶされたような夜空である。

多くの市民の犠牲、守護者が死んだ。


三の守護者

災厄によって起きた火災にて焼死、一番最初に亡くなったこともあり、汚点とされ遺骨は細かく砕かれ御神木付近に撒かれる。妹は力のある巫女だったが、当守護者はそういった力はなかったためこの時も女性ながらに第一線に強制的に送り出された。


十の守護者

災厄および化け物を招き入れた原因と勘違いされ市民からの暴行にあう。

多数の殴打による急性くも膜下出血による死亡。


四の守護者

 流れ弾による出血による失血死。逃げる市民の誘導、怪我した市民の手当てなど、前線で人々を導いた。追い込まれ重傷者を見捨てることもできず手当の最中に不運にも亡くなる。


二の守護者

遠距離の射撃にて後方支援を行っていたが、背後から敵に囲まれ殺される。

女性にも少しずつ自由な時代になってきたものの家系の事情でずっととらわれ決められたことしかできなかった。


七の守護者

勝ち目のない強敵にあたり、市民を防御壁で守りながら逃がす。

同行した市民・守護者に見捨てられ、時間稼ぎの餌になる。攻撃のすべがなかったため成すすべもなく化け物に嬲り殺される。


・・・以降も、被害者のリストは続くが、不自然に手で破られたように切り取られている。


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