強襲10月2日 


五戦【強襲】 (三、四、五組)

三の守護者欠員、四の守護者継続不可の為、2名補充

場所:東地区 私立落花女学院

視点:松井熛炬


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 守護者が三人減った。

特に櫻宮陽子が消えてからというもの急に強襲が続くようになり、一時は桜ノ宮神社が裏で何かやっているのではないかという疑惑も心のどこかにあった。

調査員からの報告、葛から聞いた藤凪雪弦の続行不可能の判断に至った前回の討伐についても桜ノ宮神社や櫻宮陽子が黒幕ということはないようだった。



―――これは三光の家系と一部の関係者のみが知る話

 

どんな願いをも叶える神器である神鏡が桜ノ宮神社にはあった。

100年前の大小さまざまな化け物による災厄のどさくさに紛れて鏡の行方は今も不明。

強大な力を持つ神器の存在は当時の三光の後継者のみ知り得る情報であった。

守護者三人がかりで倒すのがやっとという強力な異形が生まれ落ち、牙をむくのはあの神器の鏡の力であると予想された。それを所持し異形を操る"黒幕"という存在。


 神社の老齢のご神木なんかがあの神社やこの地域を守っていたわけではなかった。

ご神木はただの表向きの象徴であり、事実を知らない市民は落ち枝や花びらをさも力を持ったものかのように錯覚し大金を積んでそれらをお受けしていた。


過去の守護者や三光の話など、事実かどうかも怪しい点もある。

今はただ目の前の敵を一体ずつ確実に倒して、仲間も守りつつ生き残るしかないのだろう。

この組のように崩壊することなどもっての他という話である。


===

徒花の異形が一体発生しました。

以下の守護者は排除に向かうこと。


場所:東地区 私立落花女学院

美菖蒲 葛


※三の守護者が欠員、四の守護者継続不可の為、

松井 熛炬、桐月 野風を補充要員とする。

===


21時を過ぎた頃、唐突にメッセージが届いた。

前回の様子をよく知る野風とこの組唯一残った守護者の葛と落花女学院へ向かうことになった。


 集合場所に着くとすでに葛がいた。

酷くうつむき加減に立つ葛の表情は街灯の光も届かず伺い知ることはできない。

おーい!と大きな声で彼に近づき声をかけた。

「葛~!オレがいるっス!そんな顔しないでパパっと倒そ?な?」


可哀そうな葛。

オレと一緒の組になって背中預けていれば、こんなにボロボロにならなかっただろうに。


「うむ・・・」

その言葉に後悔と緊張でごちゃまぜになった形容しがたい表情に一筋の光が差した。

さすがに仲間意識とか薄かった葛でも、この一ヵ月の出来事で自分を責め続けることしかできなかったのだろう。


「今回は俺様と!この小僧が前に出てぶった切るから松井は後ろでどっかり構えてくれればいいんだけどな。」

少し遅れて後ろから野風が大股で歩いてきた。


 今回は強襲とはいっても、相手の異形の殲滅だ。

耳栓をすれば幻覚などの影響を受けることもなく異形に近づくことが可能だということが分かっている。

耳栓をしていれば、当然声での意思疎通ができない、夜の校舎は暗く目に頼るだけでは難しい。

今までの情報から冷静に判断し、作戦を練った。

現地へ向かうまでに暗い表情をしていた葛もだんだんと戦意を取り戻したかのように見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん、こっちだな」

そう言って野風がずんずんと校舎を進んでいく。

階段に出て再び匂いを嗅ぐ仕草をすると「上だ」と三階の方を見やる。


匂いを察知はできるものの方角や上下まではっきり嗅ぎ分けて「警察犬か!」と思ってしまった。

おそらく野風より警察犬の方が賢そうだ。野風には失礼だが。

同じことを葛も考えていたらしく、

「食い意地の張った野犬のようじゃの...」

とぼそっと言って葛の背中をバシバシ叩いて笑ってしまった。


そんな二人が笑っているのを見て少しほっとした表情を見せた野風だが、その表情はすぐさま緊張感に満ちた。

「おい!ガキども!耳栓つけろ!!」

三階への踊り場に差し掛かったあたりで一気に花の匂いが強くなり、異形が連れていた輝く蝶の鱗粉が一瞬見えた気がした。


1年生の教室が並ぶ廊下でオレは花火をぶっ放した。

野風が何か怒っている。声が聞こえなくとも身振り手振りがうるさい。

おそらく髪が少し焦げたことを示しているが...耳栓をしているから聞こえないので分からないふりをして無視した。


一方、異形の方は距離もそこまでなかったのに、運よくひらりと避け、廊下の曲がり角にあったステンドガラスを花火玉が割り炸裂する。

花火の炸裂を合図に葛、遅れて野風が駆け出した。


―――葛と合流する少し前

「このまま葛が守護者を続けるためにも...今回、異形の息の根を止める役目は葛にやらせるべきだ。」

オレと野風の意見は一致した。

野風も葛も一番最初に斬りこむ無鉄砲な戦い方である。

本来ならばサポートに野風が回ることなどない。

以前から銭湯で若いのによく働く葛を野風も認めていたし、守護者の顔ぶれの中に見つけた時はつらかったのだろう。


今回はそんな葛の精神面を考えサポートに回っている。

異形は音の影響を受けずに自分に一直線に駆けてくる守護者二人を目にして、すぐさま逃げようとした。退路をふさぐ形で野風が先回りし、体勢を崩した異形に葛が素早い剣撃を浴びせた。

その後も葛は何度も何度も重い一撃を食らわせ異形は力なく床に伏していた。


動かなくなり、ぶすぶすと煙が着物の裾から出て行った。野風は刀を構えたままその様子を見守る。

異形の笛は手からすでに落ちからからと音を立て野風の足元に転がる。

異形は最期の力を振り絞って笛を手に取ろうと必死に手を伸ばしていた。


しかし、ふと何かに異形が気づき上へ視線を向け野風を指さした。

「ーーーーーーーーー。」

何かを異形が口にしたが耳栓を付けているため聞き取ることはできなかった。

唇の動きから内容を読み取る特殊な術も、ここにいる三人が持ち合わせているはずもなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「よくやったっスねえ~!つーづらー!!」

耳栓をとり、オレより少し背の小さい葛の頭を無理やり撫でる。


「ああ、これで・・・ようやっと雪弦を元気づけに行けるな。」

どこか晴れ晴れとした葛の表情は望んでいたもののはずなのに、

自分に向けられたものではないと言葉から否応なしに自覚させられる。

ぐっと胸の奥を握りつぶされるような感覚があった。

「・・・。」

黙りこくっていると野風が

「あー?どうしたんだ?松井~そんな顔して。

 やーっと面倒な敵倒したんだから景気づけに一杯いくぞー」

悟られないようぱっと表情を戻し

「未成年なんだから、オレはまだ飲めないっスよ」


歌を詠み、普段の服装に三人とも戻る。

「ガキはありがたく俺の酌でもしとけ。俺様がきもちよーく飲みたいだけなんだよ。」

がははと豪快に笑い、野風はぐっと伸びをする。


「とんでもない大人じゃ。頭焦げてるくせにの。」

いつもの生意気な口調がようやく葛の口から出た。

「そうだ...そうだった!おい!松井の小僧!お前ってやつは俺が前にいるのにぶっ放しやがって!!」

だんだんと地団駄を踏みながらご立腹である。


「そんなチリチリ頭で怒られても怖くないっスねえ~」

そう言って葛の手を取って家の方向へ走り始めた。


つられて走る葛も年頃らしいいたずら小僧の表情をしていた。

ぐっと葛の方がオレの手を引いた。手を引かれた反動でつられて振り返る。


「ありがとう、熛炬。お前のおかげじゃ。」


朝日に照らされたその表情をオレは一生忘れないだろう。


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今回のロスト・脱落者・怪我人:なし

今回の徒花の異形:誘う音色

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