強襲11月20日


閑話 今日にいたるまでの日々

視点:????

彼の家の使用人と名乗る方から手渡されたスマートフォンにはロックがかかっていなかった。

遺書として保存された音声データには几帳面な彼らしい遺された家族への感謝や謝罪から始まり、後継者や一族の子どもたちが苦しまないようにと、遺書とは思えない優しさのあふれる声色でつづられていた。

そのスマートフォンを持ってきてくださった使用人はその後、削除済みフォルダを見せ、その音声を流した。

私へ向けたものだった。


視点:????

 新月の夜や強襲の夜、刀を握っていると、こうふわ~っとじゃな。

目の前が真っ暗になる感覚さえある。

自分ではない自分のような不思議な感覚といえばますますオカルトじみてて研究したくなるというより、嫌気がさしそうになる。

どっかの「真実はいつもーひとつ!」的なのに出てくるあの間抜けなおっちゃんのように、ことが終わると周りが騒ぎ立てていたり、感謝してくれてたり...。

なんなんじゃ...まったく。


視点:????

あいつの目はもう誰も映すさない。万々歳、結果オーライだと言うやつだ。

もう□□□□にも用がない、そう思っていた。が、■■はなぜか今も□□□□という人間が欲しい、と感じる。

自分の思考がよくわからない。



11月13日 強襲
第十戦【強襲】 (一、二、五組)
場所:北地区 刑場跡地
視点:複数名



「人の気持ちってどこに存在すると思いますか?」


小学校の時の先生が道徳の授業でそんなことを問いかけ、題材になった覚えがある。


左胸を指さすもの


頭を指さすもの


自分より少し上の空中を指さす変わり者がいた。

彼女は「魂!」なんて言って教室をざわつかせたが、あの時の私はどこだと思ったのだろう。


===


徒花の異形が一体発生しました。

以下の守護者は排除に向かうこと。

場所:北地区 刑場跡地

松井 熛炬

氷梅 六花

※十二の守護者が欠員の為、美菖蒲葛を補充要員とする。

===


「ってことで、前回の強襲の時に野風が死んじまって。で、顔面付近は筋肉細胞も複雑なせいか治りが遅れるみたいだ。」

「なるほど...」


「花札自体が回収できなかったらしいっス。刀の方を異形が持って行って、一定の距離ができた時点で野風は私服に。花札も周囲にはなかったって。」

「異形に取られたな。」


いつもより冷たい...というか研ぎ澄まされた葛さん

仲間が死んだというのに当時の状況を淡々と事細かに説明する熛炬さん。


同世代なのに落ち着いた雰囲気の二人とは対照的にぐらぐらと煮えたぎる感情をどこへ向けよう。

この二度目の対峙となるであろう強力な異形に緊張とくやしさ、大切な人を殺された恨みでおかしくなってしまいそうだった。


「六花?大丈夫っスか?」

「ええ、大丈夫ですわ。いきましょうか。」


「あ、あとこれ。何かあったときに、使い方は任せる。」

熛炬さんは包み込むように手渡してくれた。

彼の手はとても暖かく人となりを示す温度だった。

それをぎゅっと胸に抱え、感謝の気持ちを述べた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 作戦は頭部を狙う作戦だった。

いつも通り最初の攻撃は熛炬の花火玉で頭部狙い。

六花は援護射撃。今回加わった葛は野風に比べれば相当の剣術の腕であるのは六花の位置から見てもよくわかった。


これなら勝てる。

そう思った。


何度も斬りかかれ、再生も間に合わないと悟った異形は大きく跳躍し、距離をとった。


『いつとなく いとけなき日の悲しみを われにをしへし桐の花はも』

体長は2メートル50近いだろうか。あの異形は恭しく天上へ花札をかかげ、歌を詠みあげた。


顕現された太刀は野風が持っていたものと同じだろう。それを手に取り、葛に斬りかかる。


気圧され後方に吹き飛ばされる葛を援護するように、撃ち込まれる熛炬の花火玉と六花の銃弾。


『ああ、面倒だ・・・刀の小僧は強いし...そうだな・・・』

ぶつぶつと何か思案する異形は姿さえ見なければ確実に人間そのものだった。


はたと手を打った異形はいきなり上空へ高く飛び上がる。

新月の夜であればきびしかっただろうが、明るい色の羽を持つ目立ついでたちは満月を超えたばかりの明るい月夜であれば六花は狙撃を続けられる。


何度か銃弾を撃ち込んでいると、熛炬さんが何かを叫んでいた。

聞き取ろうと撃つのを止めたときに、自分が異形の罠にはまっていたことに気づいてしまった。


「撃つな!!!六花!!!逃げろ!!!!」

その指示を聞き取った時には、背後の木がバキバキと踏み割られ、ばさばさと動く羽根が擦れ合う音が聞こえた。


『この辺だったはず...おかしいな...あのちみっこい小娘』

ずしんずしんと大きな足音が聞こえる。

ひたすら六花は見つからないように息を殺した。

口を押えた手から少しでも漏れる呼吸音が他人が耳元で呼吸しているかのように大きく聞こえた。

距離を詰められれば勝ち目のない自分の弱さに、やりきれなさで無理に抑えた呼吸だけでない要因で胸が苦しくなる。



『あ゛ぁ...あと何人殺せば俺は許される...?』

唐突に異形は虚空に問いかけた。


・・・あと何人?

殺した人たちをただの数で表現した。


彼らには殺される理由など一切なかった。それをただの自分の罪滅ぼしの数稼ぎに利用された。

怒りが込み上げてきた。

お前だけじゃない。ほかの異形だって、どのような理由があったかは知らないけれど、尊い願いを持つ守護者たちを殺してきた。


――― 死にたくない、もう願いなんてどうでもいい。

そんな自分の素直な気持ちだってあったはずなのに、

お前に殺された彼は私の未来を想ってくれた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


「死んじゃえば終わるのよ。」


夜の雑木林に純白の白無垢。

これ以上ない格好の的であるのは痛いほど自覚できる。


発表会のスポットライトのごとく暗い舞台の中で、

唯一明るく月が照らしているのは、きっと私。


きっと遠くから狙う私が一番身体が小さくて、接近戦に弱いって考えたんでしょう。

今夜の戦いで一番気持ちが昂っているのが私だと知らなかった。


こちらを斬りつけようと狙って駆けてくる異形を見ながら手持ちのライターで花火玉に火をつけた。


思いのほか早くこちらまでたどり着いた異形の耳元でささやいた。

「"誰か"が許しても私だけはお前を許さない」


ずぶずぶと身を貫く刃物の感触は熱く。焼かれるようだった。

じわっと装束に滲む血液も、次第に暗くなる視界さえも、彼の最期の苦しみの中伸ばしてくれた手を想えば。


白い外套で隠していた花火玉を迷いなく異形の首元にあてた。

すでに導火線の長さはわずかであったため気づいた異形が振り払おうにも遅かったようだった。



 雑木林を揺らすドォンと大きい地鳴りのような炸裂音。

その数分後、音を頼りに駆けつけた葛は頭部と首を損傷し死にかけで痙攣する異形の息の根を迷いなく止めた。


その傍らに元は白い守護者装束を爆発で赤黒く染めた少女が横たわっていた。


それまで冷たい冬の月のような表情をしていた葛も、あまりにもむごいその惨状にぐっと眉間に皺を寄せた。

「ここまで、やらんくてよいじゃろう...なあ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


今回のロスト・脱落者:氷梅六花

怪我人:なし  

今回の徒花の異形:盗人の贖罪


【お知らせ】

次回、シナリオ進行では落花の守護者エンディングルート分岐となります。

12月の新月を予定しておりましたが、特に重要な回となります。

その為一ヵ月準備期間を頂き、1月の新月にエンディングルート分岐を含むシナリオを公開予定です。

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